入れ歯製作の第一歩は、診断とカウンセリングです。このステップでは、患者の口腔内の状態、生活習慣、希望に応じて最適な入れ歯の種類を選定していきます。ここで行われる診査は非常に重要であり、最終的な入れ歯のフィット感や満足度を大きく左右します。
カウンセリングではまず、残っている歯の本数、歯周病の進行状況、顎骨の形状、咬み合わせの状態などを精密に検査します。これに加え、患者が日常生活でどのように歯を使っているか(例 食事の内容、会話、発音のしやすさなど)も考慮されます。加えて、審美性を重視するのか、装着感を優先するのかなど、患者本人の希望も反映されます。
この段階で選定される代表的な入れ歯の種類は以下の通りです。
表 入れ歯の種類と特徴比較
種類 |
対象・特徴 |
保険適用 |
費用目安(片顎) |
レジン床義歯 |
保険適用で費用が安い。厚みがあり違和感が強め |
○ |
5,000〜15,000円 |
金属床義歯 |
自費。強度があり薄く作れるため装着感が自然 |
× |
100,000〜300,000円 |
ノンクラスプデンチャー |
バネが目立たず見た目に優れる。部分入れ歯として人気 |
× |
100,000〜250,000円 |
シリコン義歯 |
柔らかい素材で痛みが出にくく、粘膜にも優しい |
× |
150,000〜350,000円 |
インプラント義歯 |
インプラントで固定する義歯。安定性が高く外れにくい |
× |
300,000〜800,000円 |
患者の希望と症状によっては、これらの種類を組み合わせた提案もされます。たとえば、見た目重視の方にはノンクラスプ義歯、食事の快適性を重視する方には金属床義歯が選ばれるケースが多いです。また、アレルギーや粘膜の感度によってはシリコン素材を選ぶこともあります。
診断の際には、X線撮影や口腔内写真、歯列模型なども使用して、より精密な情報収集を行います。歯科医院によっては、デジタルスキャンを活用してより正確な診断を行うこともあり、患者側の負担が少なくなっているのも特徴です。
入れ歯の種類は見た目や使用感だけでなく、今後のメンテナンスのしやすさや修理の有無にも関わってきます。そのため、カウンセリングでは将来的なメンテナンス性やライフスタイルの変化まで想定しながら、患者と歯科医師が一緒に判断していくことが求められます。
適切な入れ歯を選ぶためには、専門用語に不安を感じず、わからない点をしっかり質問することが大切です。医院によってはカウンセリングを無料で実施しているところもあるため、複数医院を比較することも選択肢として考えましょう。
型取りの工程と精密な印象材の重要性
入れ歯製作における型取りは、完成する義歯のフィット感を大きく左右する極めて重要な工程です。型取りとは、患者の歯ぐきや粘膜、歯の状態を精密に記録し、入れ歯の土台となる模型を作るためのプロセスです。特に部分入れ歯では残存歯との適合性、総入れ歯では粘膜への密着度が求められるため、この作業の精度が最終的な装着感に直結します。
型取りに使用される印象材にはさまざまな種類があり、それぞれの素材には特性があります。
印象材の種類と特徴
アルジネート印象材
保険適用、コストが安い
操作性がよく型取りが簡単
一般的な保険診療用に使用される
シリコン印象材
精度が高く変形しにくい
寸法安定性に優れ、詳細な情報が得られる
自費義歯や精密治療に適している
ポリエーテル印象材
流動性が高く歯ぐきの細部まで型が取れる
硬化後はやや硬めの仕上がり
総義歯や特殊症例に対応可能
型取りは基本的に1回で済む場合もありますが、精密な義歯を作る際は「個人トレー」と呼ばれる専用の型を作成し、さらに精密な印象材を使って2回に分けて行うことがあります。これにより、より口腔内の細部まで再現でき、義歯のズレや痛みを防ぐことが可能になります。
また、最近では口腔内スキャナーを使った「デジタル印象採得」も登場しており、型取りが苦手な方でも負担少なく進められるようになっています。デジタルデータをもとにCADソフトで設計された義歯は、従来よりも高精度かつスピーディーに仕上がる点が大きな利点です。
精密な型取りがされていない場合、完成した入れ歯が合わず、痛みや違和感、外れやすさといった問題が発生しやすくなります。そのため、工程を急ぎすぎず、丁寧に型取りを行う歯科医院を選ぶことが快適な入れ歯生活の鍵となります。
患者自身が型取りの重要性を理解し、精度を重視する医院を選択することで、長く安定した義歯を使用できるようになります。誤差が少ない義歯は咀嚼効率にも好影響を与えるため、型取りを軽視することなく慎重に向き合うことが求められます。